Kiramune Presents READING LIVE「密室の中の亡霊 幻視探偵」用語集

幻視

「対象なき知覚」である幻覚(幻聴、幻味、幻臭、体感幻覚など)のうち、視覚を対象とした「実際には存在していないものが見えてしまう」もの。
医学的にはレビー小体型認知症で見られる特徴的な症状だが、本作の「幻視」は、主人公の一人である暁玄十郎が「証言や物証など、集積した情報から犯人を含む関係者の思考心理・行動を、可能な限り矛盾を少なくシミュレートすること」を「テレビ番組の再現映像のように(劇中の斗真摂理が発した表現)」知覚することを示す。

密室の中の亡霊(マボロシ

本作のサブタイトルで、ダブルミーニングを含んでいる。

  • 作中事件の「黒書館殺人事件」における、交霊室に現れた三条雪の亡霊。真実は(暁玄十郎のに幻視に寄れば)、書斎に潜んでいた田辺清が雪に扮装し、参集した三条虚霊の3人の弟子を目撃者に仕立てるためにでっち上げたもの。
  • 暁玄十郎の脳内という密室だけに潜む亡霊の斗真摂理を「マボロシ」と称したもの。
信頼できない語り手(Unreliable narrator)

小説、映画などで、読者の先入観を利用した仕掛け(叙述トリック)の一種。
物語の語り手の信頼性を落とすことで、受け手が知り得る情報を制限し、ミスリードを誘発する手法。
アメリカの文芸評論家、ウェイン・ブース(Wayne C. Booth)の著書「フィクションの修辞学(The Rhetoric of Fiction)」で紹介されたのが初出とされる。
本作は、「語り手(暁弦十郎)」と「劇中劇の語り手(田辺清)」の両方が「信頼できない語り手」である二重構造になっている。

  • 田辺清:自身が犯人であることを伏せ、犯人しか知り得ない視点を意図的に排除した「黒書館殺人事件」の手記を残す。作中では暁弦十郎の「幻視」という体の劇中劇で表現している。
  • 暁弦十郎:本作の語り手だが、冒頭から一貫して「助手の斗真摂理が実在しないことを明言しない(観劇者に伝えない)」ため、「暁玄十郎もまた信頼できない語り手である」こと(=斗真摂理がマボロシであること)自体が作品の大オチになっている。
アガサ・クリスティの例の作品

ミステリーの女王、イギリスの推理作家アガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ(Dame Agatha Mary Clarissa Christie)(1890 - 1976)が1926年に発表した長編推理小説アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)」のこと。
クリスティの6作目、名探偵エルキュール・ポアロシリーズの第3作で、ポアロの隣人で医師であるジェイムズ・シェパードの手記という形を取るが、実は「語り手であるシェパードが犯人」という叙述トリックを用いた作品。
ミステリにおける「信頼できない語り手」が一般的ではなかった1920年代においてインパクトが大きかった作品であり、「フェア・アンフェア論争」を巻き起こすほどであったが、現在でもミステリ史上に残る古典的名作と称される。
本作では、書生である田辺清が「アクロイド殺し」に触発されて、自身の手記として「黒書館殺人事件」を事件の数年後に残したとされている。

屍食教典儀((仏)Cultes des Goules、(英)Cults of the Ghouls)

クトゥルフ神話に登場する架空の書物(魔道書)。
フランス国内の、人肉嗜食や屍姦行為などを行う邪教について記述されている(とされる)。

山田浅右衛門(やまだ あさえもん)

江戸時代の御様御用(刀剣の試し斬り役)および死刑執行人である、山田家の当主代々の名乗り。「首切り浅右衛門」、「人斬り浅右衛門」とも呼ばれる。
人間の肝臓や脳、胆嚢、胆汁などを原料とし、労咳に効くとされる丸薬を「人胆丸」の名で販売していたとされる。

福来友吉(ふくらい ともきち)(1869 - 1952)

日本の心理学者。1908年東京帝国大学助教授。念写の発見者とされる。
1910年頃から御船千鶴子、長尾郁子らの千里眼・念写の能力の立証のためジャーナリストらを集めた公開実験などを試みたが、試験物のすり替えなどが判明したりと、真偽を出せない状態が続いていた。
1914年に出版した「透視と念写」の内容について、東京帝国大学学長・上田萬年から「内容的に好ましくない」と批判されるも「透視、念写は事実である」と強弁したことで、東京帝国大学を追放(公的には休職からの辞職)となり、彼が取り上げた人物と共に「イカサマ」「偽科学者」などの攻撃を受けることとなった。
その後は科学的な公開実験は行わず、オカルティズムへ傾向していくこととなる。

御船千鶴子(みふね ちづこ)(1886 - 1911)

1909年、23歳の時に「千里眼」能力の持ち主として注目される。
福来友吉らにより、1910年から透視実験や通信実験などを通して能力の研究がされたが、科学的に厳密な立証することはできず、世の非難の的となったことも起因し、1911年に服毒自殺により死亡。
小説「リング」鈴木光司著)に登場する超能力者・山村貞子の母親・山村志津子のモデルでもある。
本作に登場する虚霊の妻・鶴は千鶴子から、娘の雪は御船千鶴子の母・ユキからの命名と推測される。